辿り着いた器
気付けば日々の暮らしに欠かせない道具になっていたwanderout / Universal Cup。175mlの小さなカップはとても手馴染みがよく、蕎麦猪口や、瓶ビールのグラスなど、実は何かと重宝するサイズです。しかし、ステンレス製のため、コーヒーやワインが酸化し、味の変化が気になるように。
酸化を防ぐには、チタンしかないと分かっていましたが、非常に硬い素材のため、美しいヘアライン加工はかんたんではありません。さらにダブルウォールとなると課題は山積みでしたが、世界的にも有名な金属加工の街、燕三条のとある工場に辿り着きました。試行錯誤を繰り返し、職人のプライドと高度な技術で再現することが可能に。ひとつひとつ、これほど丁寧に作られているとは想像も付かないでしょう。一見すると無機質なカップ。手に取ると、大切にしたいと思うようになるのでは。
丹念な磨き
熱伝導率が鉄の1/4ほどのチタンは、研磨の熱を発散できず煙が立ち、すぐに火花が散るほど。研磨後のカップに触れると、熱くて持てないことに気付く。もはや研磨の加減を身体で覚えるために、試行錯誤した半年だったのではと感じる。熟練された手仕事はまさに職人の技。
１工程目の研磨、チタンから火花が散る。
いちばんの難関は、ダブルウォールの溶接の継ぎ目を消すことでした。一般的なチタン製のダブルウォールカップは、飲み口付近に溶接の継ぎ目が残ったままのものが多く、ゆっくり全体を触ると凹みや歪みも感じ、加工の難易度の高さを痛感します。最後まで私には見えませんでしたが、「継ぎ目の線がまだ見える」と、職人のプライドに圧巻。力が入りすぎて凹んだり、削りすぎて穴が開いたり、この美しい佇まい、かんたんには再現できません。
２工程目の研磨を終えて、私には継ぎ目は見えません。
人の手が好む大きさ
サイドラインをシャープに整え、日本人にはとても手馴染みが良いφ70mm x H70mmの大きさです。限界の高さまで厚みを持たせ、飲み口付近で口当たりの良いテーパーを再構築し、保温力も向上しています。175mlの容量は普遍的で汎用性が高く、小さなテーブルで過ごすキャンプでは飲み物だけではなく、小鉢としても理想的。チタンに変更したことで味へのこだわりはもちろん、高い耐久性、重量も50gに軽量化されています。
美しい飲み口のテーパー。
調和する配慮
もはやチタンには見えない、底面まで徹底した美しい研磨を目の当たりにし、自然とロゴもシンボルマークも入れるのをやめようと感じる。キャンプではあくまでも目の前に広がる景観が主役で、プロダクトに過剰な主張は必要ないと考えています。また、良質な家具やプロダクトのロゴが目立たないように、日常でも違和感なく使えるアイテムという視点で考えても、残念ながら大きなロゴやマークは邪魔なことが多い。wanderoutでは、できる限りロゴは控えめに、「プロダクトそのもの」で選んでいただけるように、丁寧にものを選び、作り、その価値を信じて、紹介していきたい。
３工程目の研磨を終えて、もはやチタンには見えないほど。
モノが溢れる時代
真空断熱ですかと尋ねられることがありますが、蓋のないダブルウォールカップでは、気になるほどの温度変化の差はありませんでした。また、完璧な真空状態が生産できる工場は希少なため高価になり、大量生産も必要になります。蓋をするのは持ち運ぶとき。そこは水筒に任せ、Universal Cupは日々の暮らしに最適なスペックです。もちろんスタッキングも可能、コンパクトに持ち運べます。
モノが溢れる時代に、モノを作るということ。背景を伝え、大切にしたいと思うきっかけを作ることが、解決につながるかもしれません。住まいの内と外とテストも終え、発売まであと少し。
新作のwanderout / UNIVERSAL PLATE 48とあわせ、テストの様子。
チタンは、ワインやコーヒーなどが酸化せず、本来の味や香りをお楽しみいただけます。
wanderout / Universal cup Set of 2
2024年4月から、仕上げをブラスト加工にアップデートしたモデルを発売します。詳細は下記リンクからご確認下さい。